小学校のPTAで仲良くなったママ友Aさん。
子供は性別もクラスも違うので友達ではなかったけど、
私とAさんは互いの家を行き来して、おしゃべりしたりおかずを融通し合う仲になった。
Aさんは専業主婦で実家も裕福、旦那さんの実家も裕福で、
旦那さん、お父さん、お舅さんは人にお金持ちだと思われる職業。
(はっきり書いてしまうと特定されるかもしれないのでぼかします)
息子が2人いて、
兄の方は、うちの娘の情報によると、頭がよくて女の子にもやさしい優等生。
弟の方は幼稚園児で、これまた利発でしつけのきちんとした良い子。
新年度になってPTAの任期も終わり、弟くんが小学校に上がったのを機に、
Aさんはパートで仕事に……ではなく、カルチャースクールに通い始めた。
小説とかの書き方を習っている。
学生時代は詩人や小説家に憧れていたんだそうだ。
しかし意外なことになった。
Aさんは恋に落ちた。
本人いわく、「運命の人」に出会った。
お相手は、同じスクールに通う大学生。Bとする。
Bは文学部の学生で、やはり小説家や詩人になりたいので、
大学の他にスクールで腕を磨いているそうだ。
「目指す道が同じで、感性も似ていて好みも合うし。運命の人に出会ったって思うの。
旦那とはお見合いで、周りに勧められるまま結婚したし」
Aさんはうちでお茶しながら、こんなことをうっとりと語った。
私は「浮気はダメだよ、子供さんが可哀想だよ」と言うしかなかった。
その後しばらく、Aさんから連絡がなかった。
突如、Aさんの旦那さんから電話があって、
「Aがどこにいるか知りませんか」。
びっくりして聞きかえすと、息子2人を置いて家出したらしい。
とっさにBのことが頭に浮かんだが、言っていいものかためらった。
「カルチャースクールのお友達には聞いてみましたか」とだけ言った。
ビンゴだった。
けれど結末はあっけない。
お嬢さま専業主婦とすねかじり大学生のカップルなど、手持ちのお金を使い果したら、どうにもならない。
すごすご戻ってきたらしい。
あきれたことに、これで終わらなかった。
うちに迷惑をかけたお詫びにとAさんが菓子折りを持ってやってきた。
はつらつとしてきれいな人だったが、今は見る影もなくやつれてげっそりしていた。
言わずもがなだろうけど、言わずにはいられなかった。
「運命の人もいいけど、子供さんのことを考えなよ。旦那さんだって心配してたよ」
Aさんは答えなかった。
私がなおも言おうとするとそれをさえぎり、
「だって海へ行きたかったんだもの」
「えっ」
Aさんは焦点の合わない目で、歌うように続けた。
「わかるでしょ。海に行かせて」
Aさんはスクールで作っていた同人誌を1冊くれた。
Aさんの小説は夢見がちな少女のようで、
Bの詩は「おお哀れな言葉たち」とか「闇夜に船を出せ」とか(よく覚えてない)若者らしい感じだった。
またしてもAさんとBは失踪した。
今度はなかなか帰ってこない。
どこかで息をひそめて暮らしているんだろうと思うようになった頃。
警察から確認ための電話があった。
海だの船だのにこだわっていた割には、山だった。
それも山奥ではなく、市内の小学生が遠足に行く山の、登山道から外れたところだった。
気力もないけど体力もなかったんだなと思わずにはいられなかった。
事件性がないので、ローカルで1度報道されただけだった。
正直いって馬鹿だなあと思った。
2chを見るようになって、
Aさんは「頭がお花畑」で、Bは「中二病をこじらせた」のだなと納得した。
息子さん2人は、周りはいろいろ言ったけどA旦那さんが「自分が育てる」と男3人で暮らし続けた。
時々、商店街ですれ違ってあいさつした。
このたび、息子の兄くんの方が結婚して外国に赴任するというので幸せを願って。
無駄に行動力のあるお花畑と中二病に一つまみの障害を用意してあげるだけでこんな事になるんだな
何ひとつ自分で決めて掴んだ物がなく周りから良い子と言われお膳立てされた道を歩んでいたら夢の世界を見つけ、逃避したとでも言うのだろうか~( `Д´)/