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俺が見た天才について話そう
そのままチャラ子の前まで歩いて行き立ち止まった
「はあ?なに?」と少しKに驚きつつも答えた時だった
「お前が食え!!」そう怒鳴ると同時にKはチャラ子の胸ぐらを掴んで引き寄せると共に足払いし床の弁当の上へ転ばせた
Kが大きな声を出したのを初めて見て俺は呆然としていた、それはクラスの他の人も同じようだった
チャラ子の頭を押さえつけて「早く食えよ」とKが無表情で言ったあたりで、これはやばいと察し俺はKを引き剥がした
「どうしたんだよ!落ち着けって!」俺はKを抑えながら言ったがKは特に抵抗する様子もなく俺に引っ張られるまま離れた
Kが離れた後チャラ子は大げさに痛がりながら立ち上がり制服や顔についた飯を払いながら「はああ!なんなの!まじありえんし!」と怒気を帯びた口調で言った
Kは俺が放すと同時にチャラ子にまた近づいて行った
チャラ子はビクッとして驚いていたが取り巻きの手前弱いところは見せられないのか平静を装っていた
Kはチャラ子の正面で立ち止まり顔の近くで何事かを呟き地味子の片付けを手伝い出した
チャラ子はそれを聞き半泣き状態になって「ほんとありえん!なんなのよ!ありえん!」とか言いながら自分の席のカバンをとって出て行った
人間追い込まれるとありえん!しか言えなくなるのかもしれない
その後おおかた片付け終わった頃にKは食べかけの蒸しパンを地味子に差し出し「あげる、ごめんね」とだけ言って教室から出て行った
地味子は食べかけの蒸しパンをどうしたものかと少し見つめてその後カバンの中に入れた
Kが出て行った後の教室はいつもよりざわついていた
「チャラ子も悪いけどKもやりすぎだわー」とか「最後にチャラ子に向かってKなんて言ってたの?」とかそんな感じで盛り上がってた
幸い先生に見られなかったことで、これによりKがなにか処罰を受けることはなかった
チャラ子側も虐めたことがバレるのを恐れたため教師に言えなかったのだと思う
後日、Kとその時の話をした。いつも通り昼食を食べながら
「なんであんな風になったんだよお前は」なるべく責めるような口調にならないように気をつけ聞くと
「あー、俺はアンパンマンになりたかったんだよ」とだけ言っていた
もう多少の付き合いだからわかっていたがこういう時のKはこれ以上詮索しようともなにも答えないのだ
チャラ子に最後なんと言ったのかが気になっていたのでそれだけ教えてくれと言うと「忘れてしまったよ」と本当なのかとぼけてるのかわからない口調で返された
噂ではいつもの真顔で「次やったら殺す」と言ったらしい、噂なんて当てにならないがKなら言いかねないなと思って半信半疑でクラスのやつが話してるのを聞いていた
チャラ子は事件の次の日からいつも通り登校してきたが、あれから地味子をいじめることとKに近寄ることはなくなった
「あれは流石にないわ」という空気になったらしく心なしかチャラ子は大人しくなった、大きな変化はなかったが
Kはそんな事件などなかったかのように些細なことでチャラ子に話しかけたりするがチャラ子は明らかにビクビクしていて遠くから見ていると面白かった
地味子はその後それなりに友達も出来たらしく一人で食事してる姿はあまり見かけなくなった
ただKはその一件でより近寄ったらやばい奴みたいなレッテルが貼られ少し遠ざけられていた
当人は気にしていないようだが俺はなんとも解せなかった
1が惚れないのがおかしい
この流れで地味子はKに惚れたりしなかったのか?
明日も待ってるよー
地味子は既に別の学校に彼氏がいたらしい、もともと地味だけどそこそこ可愛かったし不思議ではなかった
でも凄い感謝してるみたいでなにかとKと俺には良くしてくれたよ
Kは仮面ライダーキバ?の人に似てると思う、貞子にも確か出てた!目はもう少しキリッとしてる感じ
Kと哲学の話
ある日の昼休み珍しくKから話しかけてきた
「ねえ、お前は何が怖い?」
「え、何がって何が?」Kはどれだけ付き合っていても思考が読めない
「お前の1番怖いものは何か聞いているんだよ」突拍子もなくこんなことを聞いてくることに何の意図があるのかまったくわからない
「そうだな俺は、饅頭が怖い」有名なあれを思い浮かべつつ答えた
「じゃあ私はチーズ蒸しパンが怖いかな」Kはこういう掛け合いというのかはわからんが、こういうやり取りが好きだというのは昼休みに培った会話の中で知っている
それにKには一人称がたくさんあった、どういう使い分けなのか知らんが私だったり俺だったり僕だったり
「じゃあ2番目に怖いのはなんだい?」
と再度Kは尋ねてきた、おそらく今度はふざけることは望んでいないだろう
「何が怖いかか……、うーん死ぬことかな」漠然とした質問のせいで漠然とした答えしか出てこなかった
「そう、死ぬことね」頷いた後にKは続けた「でもさあ、死ぬってのは本当にあるのかな?」
「は?何言ってるんだ?」
「いや、おかしなことを言ってるのは理解しているよ。でもさ死ぬってのは巧みに周りの人に騙されているだけで本当はフィクションなんじゃないかと思うんだ」
いつものどこへ向かうでもない浮遊した会話でない辺りKは本気でこの話をしているらしい
余計に口を挟んで的外れなことを言ってしまわぬように黙ってKの話を聞くことにした
何も言わない俺を一瞥してKはまた話し始めた
「例えば君は死んだことがあるかい?」
「だったら今ここでお前の高尚なお話を頂戴してはいないよ」
Kが一瞬不機嫌な顔をしたので一言詫びを入れ続きを促した
「きっとさ死ぬなんてことはないんだよ、ずっと引き伸ばされた今を無限に繰り返すのが生きるってことなんだよ」
「ほう、じゃあ俺は祖母がガンのせいで目の前で息を引き取るのを見ているがこれはどう説明するんだ?紛れもなくこれは死だろ?」
「そもそもその祖母は生きていたのかな?」
いよいよわけがわからなくなってきた
頭上に疑問符を浮かべてる俺を見てからKは説明を始めた
「僕は僕の世界に僕しかいないと考えてるんだ、他の人は全て言うなればCPUさ。ドラクエの村人と同じだね、決められた行動をして決められた言葉を話し決められた時に死ぬ」
「つまり俺も村人Aか?」
「そうなるね、僕の世界では」
この話を理解するには俺の脳の代わりに脱脂綿がつまっているような頭では理解できそうにない
「ただ君の世界では僕が村人Aさ、つまり僕らは個々に世界を有しているんだよ。それが重なった部分だけ僕らは交流できる。
例えば僕の背後には今何も存在していない、僕の世界では。視認できないからね、存在する必要がないんだ。でも君の世界では僕の背後には教室が存在してる。だが君の背後には何もない、君の世界では」
言わんとするニュアンスはなんとなくわかったがもう少し噛み砕いてほしい
「わからないかな?もっと大きく言うとアメリカは存在しないんだ。僕は行ったことがないからね、つまり自分の世界は目に見えて聞こえて触れて感じれるところだけなんだよ」
「うーん、まあなんとなく言おうとしてることはわかったよ」それがどうしたと思うがとりあえずは話が着地するまでは黙って聞いておく
「だからね、君の世界での私は死んでしまうかもしれないけれど僕の世界では死ぬことなんてないんだよ。死ぬというのが感覚を完全にシャットアウトされるという認識が間違っていなければね」
「自分が死んだと認識できないからってこと?」
「そうなるね、理解したかい?」
結局その日の会話は釈然としないまま終了した。
Kは何を言いたかったのだろう。
それから何ヶ月か経った頃のこと
放課後俺は掃除か何かのせいで少し学校に残っていた、すると救急車のサイレンがだんだん近づいてきて学校の近くで止まるのが聞こえた
学校に残ってる人は皆そのことでざわつき出し何人かは「外行ってみようぜ!」と走り出していた、俺もこれだから現代の日本人は……などと思いつつも野次馬根性丸出しで急いで学校の外に出た
外に出て人の流れについて行くと人だかりが出来ていたのですぐにその場所はわかった、校舎の裏の自転車置き場である
俺もその人だかりが取り囲むものを見てみようと人をかき分け見える位置へ移動した
そこには座って泣きじゃくる女性と点々と床に散った赤い染み、少し離れたところにKのリュックが転がっていた
それを発見した一瞬全ての体の機能が停止したような不思議な感覚に襲われた、なぜか脳裏には数か月前に交わしたあの会話がフラッシュバックしていた
泣きじゃくる女生徒には教員が付き添いなだめているようで周りにKは見当たらない、そして救急車は既にいなくなっていた
点々と床に散った赤い染みはどう見ても血であるのは一目で明らかだった
俺は気持ちの悪い冷や汗を垂れ流しながら手当たり次第に何があったのかを聞いた
「なんかそこの針金で手首を切ったやつがいて救急車で運ばれたんだと」適当に声をかけた生徒が自転車置き場の枠組みの金具から飛び出て地面に垂れた針金を指差し言った
「そいつはどうなった!」かなり焦っている俺を見て不審な顔をしつつも「結構血出てたみたいで気を失って運ばれてったよ」と答えてくれた
その生徒に運ばれたのは転がってるカバンの持ち主であることを確認し「たぶん……」という返事が返ってきたのでKであることはほぼ間違いなかった
俺は泣きじゃくる女生徒が1番話を知っていると思い声をかけようとしたが何人かの教員が野次馬の生徒を解散させ始めその間に他の教員に事情聴取のためか連れられて行ってしまい、その日は帰らざるを得なかった
次の日の朝教室にKの姿はなかった、何人かがそれについて話していたがその件は担任により説明された
それによるとKは飛び出ていた針金に手首を引っ掛けてしまい出血した為救急車で運ばれたらしい、そして大きな怪我ではないが大事をとって今日は休むということだった
それを聞いて安心はしたが俺は納得いかなかった、そんなピンポイントで手首なんぞを引っ掛けるだろうか?それに泣きじゃくる女生徒はなんだったんだ?
とりあえず俺はその子とコンタクトをとることにした
知り合いを伝ってその子のアドレスを手に入れることに成功した、どうやら既にその子も話題になっていたらしいので俺は色々な人に事情を聞かれてうんざりしているだろうと一瞬躊躇したがそれよりもKの行動の真実が気になりメールを送ってしまった
いきなりすいません、Kの友人です。例の件で話を伺いたくてメールしました。
とかそんな感じのことを送ったと思う
昼休み弁当を食いながらメールの返信を待っているとわりとすぐにメールは返ってきた
『K君が手首を切り出血したので驚き取り乱してしまっただけです、他にお話しすることはありません』
きっとかなりの数の人間から同じことを聞かれるうちにこのテンプレートの返答を思いついたのだろう
ただこれで「はい、そうですか」となるほど素直な性格をしちゃいない
だがこれ以上メールで詮索したところで彼女が本当のことを言うとは限らない、そもそもこれが事実である可能性もあるのだが
だからといってKが登校してきてから聞いてみたところで適当にはぐらかされるのがオチだ
俺は既に決めていた、直接聞こうと
これまでにも色々Kは問題を起こしたが自分を傷つけたのは初めてだった、これが俺の真実を知りたいという好奇心を駆り立てるものだと思う
放課後、俺は玄関で待ち伏せすることにした
既にクラスも名前も聞いていたので抜かりはなかった、完全にやってることはストーカーだがその時の俺はそんなことに考えが及びもしなかった
そして彼女がやってきた、しっかり顔を見ていなかったので不安だったが確かに彼女の場所の靴箱を開いたので間違いないだろう
「すいません、少しいいですか」かなり不審だろうが仕方ない
明らかに露骨に嫌な顔をされたのを忘れない
「なんですか」かなり冷たい言い方だった、この時点で心が折れそうだったが「Kの件で」と伝えた
「なにも話すことはないです」とまたしても冷たく言い放たれたがとりあえず少しでも心を開いてもらわねばと軽く自己紹介をしつつさりげなく売店前のベンチに誘導し座ってもらった
彼女は見た目はどこにでもいそうな量産型女子高生という感じだ
「俺はKの唯一と言える友人なんだ」これは自称だがあながち間違いでもないと思う
彼女は何も言わないので続けた、「今回もきっとKがおかしなことをしたんだろ?」
しばらく黙っていたが少しずつ彼女は話し始めた
「K君は何も悪くないんです……」
彼女の話はこうだ
彼女は俺たちより一つ上の学年、つまり当時二年生だったのだがその二年生の間にもKの様々な奇行は噂となっていたらしい
それを聞くうちに彼女はKが気になってきたらしい、顔もいいし
そこで彼女はKに放課後の帰る途中、Kは自転車通学をしているので駐輪場のところで自転車をとる隙を狙い話しかけたらしい
それが数ヶ月ほど前の話だ
その時は他愛もない会話をしKはその度おなじみの適当でよくわからん返事をしていたらしい
それでより惹かれていったと、女はよくわからん
その後も幾度とそんな交流を続けていきついに昨日のこと
彼女はついにその想いをKに伝えたらしい
Kはいつもと変わらない調子でこう言ったらしい
「俺のことが好き?どこが?どうして?付き合ってなにしたいの?俺のために死ねるの?」
そんなことを言われて彼女は自分は本気なのにKがふざけていると感じてヒステリーを起こしたらしい
彼女は俺に袖をまくって腕を見せてきた
そこには手首から肘にかけていくつもの引っ掻き傷のようなものがあった
俺にだってわかる、リストカットというやつだろう
「私中学生の時から何かあるとリストカットしてしまうのがどうしてもやめられなかったの」
へえーと適当な返事を返したが俺自身リストカットなんぞするやつの意味がわからないしそんなカッターでなぞったような傷つけたからってなんだと思っていた
俺がたいしてリストカット痕に関心を示さないと見た彼女は昨日の話の続きを話し始めた
彼女はどうにかKの興味を引こうとKにリストカット痕を見せて死んでやると言ったらしい、もちろん本気ではなかったと付け加えた
だがKは特に驚く様子もなく「本当に死ねると思うの?そんな薄皮を少し切ったくらいで」と言い辺りをキョロキョロしだしたという
「まあ頸動脈でも切った方が簡単だろうけど手首がそんなにいいならこれくらいしなよ」と見つけた針金の先端を自分の手首に突き刺し抉るように掻き切ったのだ
そして血が吹き出しKは「うわ、やっべ」と呟いて座り込み気を失ったそうだ
そして教師たちには説明する暇もなく事故ということで片付けられたらしい
これが事の顛末だ
「あー、なるほど。一応言っておきますがKはあなたの気持ちを無下にしたかったわけじゃないからあまり気にしない方がいいですよ」
「うん、それはわかってるの。でも私はK君には見合わないみたい」そう言って彼女は初めて笑顔を見せた
まああいつに見合う人間なんてそうそういないだろう、Kはそういう奴だ
俺もたまに感じる、俺なんかがこいつと話していていいのだろうかと
Kはそれほどまでに常人からは逸脱してるやつなんだ
「遅くまですいませんでした」俺は彼女に詫びその日は解散となった
後日、Kは何事もなかったように登校してきたがカーディガンの隙間からはときより包帯が見え隠れしていた
「怪我の調子はどうだ?」と聞くとKは左腕を持ち上げて見せ「そうだな、私の腕の中身には仕込み刀もサイコガンも入っちゃいなかったよ」
「あーそうかい」元気そうでよかった、その後の経過を見る限り麻痺やその他障害もないようだった。ただその手首には一生消えないであろう歪な傷がついていた
次も待ってるよー
変人が
告られて
リスカ
Kと小遣い稼ぎの話
二年生になりクラス替えがあった、うちの学校は一年から二年に上がる時だけ選んだコースごとにクラス替えが行われその後はずっと同じである
そしてKと俺は次も同じクラスになった
「またよろしくな」と言うと「君も大変だな」といつもの無表情を微かにだけ歪めて言っていた
Kは俺と昼を共にするようになってから食事をする頻度が高くなった気がする、それを迷惑と捉えていたかは俺の知るところではないが俺的にはKと会話する機会が多いことは喜ばしいことだった
学年が変わろうといつもの日々は何も変化することなく二月ほど経った頃だった
俺は中学生くらいの頃からギターを弾くのが趣味だった、高校生になると同じ趣味を持つ仲間を見つけバンドなんぞを組んだりした
好きなものには金がかかるもんで、特に楽器を趣味にしてる人にはわかると思うが無限に金が飛んで行く
ギター単体でも欲しいものは何十万もするしその周辺機器も一つで何万もする、細かな機材も消耗品なため定期的に買い換えないとならない
さらに家で音を鳴らすことは近所迷惑になるのでスタジオを借りなければならない、ライブをするのにも金がかかる
とにかく俺は金が欲しかった
月にいくらかお小遣いという形で金を頂戴していたがそんなものでは足りなかった、バイトをしようと思ったがうちの学校は原則としてバイトは禁止だった
他のバンドメンバーは元々ボンボンだったりそのボンボンに借りていたり隠れてバイトしていたりした
隠れてバイトをしようにも学校と家の距離が徒歩数分という俺はバイト先も限られてしまうためバレるリスクが高く出来なかった
それでもなんとかやり過ごしていたのだがついに自分の愛用していたギターが壊れてしまい使い物にならなくなった、完全に自分の不注意だったため誰に文句を言うこともできず新しいものを買うことを余儀無くされた
ただそんな金はどこにもない、元々前まで使っていたのもお年玉やら何やらを貯めに貯め親に借金までして買ったものだった
その返済すらしていないのに新たに借りることもできずどうにか自分で用意する他なかった
とにかく俺は金が欲しかった
そんなことばかり考えながらKと昼食を共にしている時だった
「なあなにか一気に金を手に入れる方法を知らないか?」特に期待なぞしていなかったがそんなことが不意に口をついて出てしまった
Kは少し考えるそぶりをした後口を開いた
「金ってのは堅実に労働をすれば決められた量の見返りとして手に入れられるものだ、なにもしないで楽をして多大な量を手に入れられるなんて都合のいいことはないよ」
「まあそうだよな」わかってるさ、Kに言われるまでもない
俺は諦めて弁当の残りを口に運ぶ作業にうつった
「なにもしなければね」とKは続けて話し始めた
「自分を犠牲にした分だけそれなりの見返りを得られるんだ、それは普通の労働では時間だったり労働力さ。この他にも代替として犠牲にして金を得る方法はあると思うよ、例えば良心とか」
いまいち何を言いたいのかわからなかった、だがこの口ぶりだとなにか方法があるらしい
そうとわかると聞かないわけにはいかなかった、「ぜひ教えてくれ」と言うとKは「どうなっても責任は取らないし成功するかもわからないけどそれでいいなら」と了承してくれた
「そうだな、22時に駅前にきてくれ」Kの言う駅前とはおそらくこの学校の最寄り駅のことだろう
あまりに話が早くて若干ついていけなかったがかろうじて返事だけ返しておいた、その間Kは不適な笑みを浮かべていた
放課後、Kは俺に何も声をかけることもなくそそくさと帰って行った
もしかしたらいつものように俺のことをからかっているだけの可能性もあったが俺の頼んだことだ、少し信じてみよう
ただKはいったい何をするつもりなんだろう、それに22時なんて遅い時間設定にはなにか意味があるのだろうか
たくさんの疑問を抱えたまま俺は約束の時間を待った
そして22時少し前、俺は母に怪しまれぬよう「小腹が空いたからコンビニ行ってくる」と言い家を出た
駅までは自転車で5分もかからないところだ、時間に余裕があったのでゆっくり自転車をこいで行った
駅前でそれらしき人影を探していると予定より10分ほど遅れKは到着した
Kはジーンズとパーカーを着てショルダーポーチを背負っていた
Kの私服は初めて見たが至って普通な感じであった
「さあ行こうか」そう言ってKは駅の中へ入っていった、Kについて切符を買い電車に乗った
「なあ、いったい何をするんだ?」と聞いても答えはなくKは聴いたこともない鼻歌を小さく歌っていた
Kが席を立った駅は所謂歓楽街であった、そこはいつでも人がごった返していて案の定俺たちが電車を降りたその時も人で溢れていた
Kについて駅を出て数分歩くとKは立ち止まった、そこは巨大な交差点が目の前にある場所で周りでは飲み屋やカラオケの呼び込みが大きな声を張り上げていた
「さあ始めようか」と言うとショルダーポーチから名刺ほどの小さな袋を取り出した
中には小さな錠剤が八つほど入っていた、その袋がまだカバンの中に幾つも入っている
「おい、これって」明らかにこれはやばいものだと俺にも見分けがついた
「楽に金を手にする方法が正攻法なわけないでしょ、君だってわかってるはずだよ」
Kはいつもの無表情で言った
俺は何処かでKは正義の味方かなにかだと思っていた、いつも何か問題を起こすのは人の為だったしそれにより自分がいかに迷惑を被ろうと厭わない姿勢に尊敬すらしていた
それが今目の前のKは明らかに今までと違うことで悪に傾こうとしてる
Kは「見てて」とだけ言って歩き出した、俺は黙って後ろをついて行った
自分の気持ちについて行けず思考が追いついていなかった
「すいませーん」とKはいつもより高い声色で歩いてきた女の人に近付いた、20代前半くらいであろう少し派手な格好をした女性である
Kは女の人の隣を歩きながら何事かを会話していた、俺の距離からは何を言ってるのかいまいちよく聞こえない
数十秒後女性は立ち止まりKと何かの受け渡しをし女性は去って行った
Kが俺の方へ振り返るとポケットから数枚の千円札を取り出して見せ口を開いた
「ほら、あの小袋が簡単に金になったよ」Kは笑っていた
「結構上手くいくもんだねー」と呟きながらカバンから取り出した小袋を幾つか俺にわたし余ったのを自分のパーカーのポケットへ突っ込んでいた
「なあ、Kこれはダメだろ」俺はどんな心情からこう言ったのかは自分でもわからなかった、Kへの落胆か良心の叱責か自己の保身か
気になることはたくさんあった、Kがなぜそんなものを所持してるのかなぜこんなことをしてるのか
「びびってるのかい?簡単さ、頭の悪そうなやつにちらつかせて値段を言うだけでいい。状況を見て臨機応変に、引くも押すも」
「そういうことじゃない!」俺は声を多少荒げた、だがKは飄々とした様子でこう言った
「君がどう思おうとどう言おうと俺は今ここでこれをやめるつもりは無いよ、お前がやらないと言うなら俺が全部やる。とりあえず今日だけで五万は見込める量を用意した、君はただ見ていればいい。数時間でその金は君のものさ」
Kは特に感情の起伏を見せはしなかったがKがこう言うということは意思は変わらないんだろう
「ごめん、俺が悪かった。お前が手を汚すことじゃないんだ、お前に悪いことをしてほしくないんだ」
俺のくだらない理由でKが穢れるのは許せなかった、これはKの意思は関係ない俺のエゴだ
「悪いこと?そもそも悪ってなんだい?俺は必要としてる人に与えるだけさ、互いに了承の上でね。
それを悪というのは全く関係のない外野だけだ、誰に迷惑を掛けたわけじゃない。君がそれを悪と言うなら良心が傷つくと言うなら帰ってくれていい明日手に入れた金は渡してやるさ」
Kがどうしてここまでムキになっているのかわからない、ただこの意思が変わることはないのだろう
もうなんだかどうとでもなれという気分になってきていた、俺の良心は俺だけのもので誰かが決めるものじゃない
今からすることは犯罪かもしれない、だがKだけにそれをさせ逃亡することの方が俺にはいけないことな気がする
これは後付けの自分のすることを正当化するためだけの理論だ、なんの正当性もない
「あーもういい、やってやるよ」完全にやけになりそう言うとKは少し笑ってもう一度方法を説明してくれた
3000~5000円前後で臨機応変に値段設定しろ
怪しまれたりきな臭いと思ったらすぐに引け
なるべく詳しいことは明言せず必要最低限の会話にしろ
などこのようなことを教えられた
Kはいったいなぜこんなノウハウを知ってるのかは知らないが俺の思考は完全に麻痺していて「全部売っぱらってやるよ」などと宣っていた
「24時にまたここで」Kはそう言って歩いて行った、近くで売るのは非効率的だからだ
そこから俺は可能性のありそうな人間に声をかけまくった、大抵は怪訝な顔をして去って行くか「警察呼びますよ?」などと言ってきたが素直に引くとそれ以上に何かを言われることはなかった
だが十人に一人くらいは興味を示してくれ最初の取引が成立したのは二十人目あたりだった、Kのようにはどうも上手くいかない
途中、これで知り合いに会うとまずいと今更気づきコンビニでマスクを購入し再度声かけを始めた
数をこなすと共に声をかける抵抗もなくなりスムーズに会話を進められるようになった
1時間ほどで5件ほど売り払うことができた、値段にして2万円ほど
こんな簡単に金が手に入るなんて普通に働くのが馬鹿らしくなってくる
それに驚くべきはこんなにも取引に応じる人間がいることだ、自分の身近にこんなにも犯罪が蔓延してるとは思いもしなかった
この錠剤はこんなにもこの町に定着しているのか、Kもまたその1人
袋に入った薄ピンクや薄い青色の錠剤を眺めながらそんなことを考えていた
次は誰に声をかけようかと辺りを見回してる時だった
「ちょっといいかな?」
スーツを着た2人組の男がそこには立っていた、声をかけてきた方の男はしっかりと俺の手首を掴んで「ここでなにしてるのかな?」と聞いてきた
一瞬で体中の血の気がさーっと引くのを感じた、とにかくやばいやばい逃げなきゃと考えていた
「え、あ……」何も言えず2人の顔を見渡していると「場所を移そうか」と男が手首から肩に手を移そうとした隙にその手を払い除け全力で走った
とにかく逃げなきゃとだけ考えていた、後ろからは「まてや!!」という声が聞こえ追ってきてるのがわかった
何も考えずただただ走っていると何かに躓いて転んだ
手から出血していたが構ってる暇はないのですぐに立ち上がり逃げようとするとまた手首を掴まれた
「落ち着けよ、こっち」という聞き慣れた声が聞こえ手を引く人を見るとそれはKだった
Kに手首を掴まれたまま建物の隙間の狭い道を幾つも抜けなんとか追っ手をまくことができた、Kがいるというだけで先程の焦りが嘘みたいになくなる不思議な感覚があった
「足かけてごめんね、止まりそうになかったから」Kは息を落ち着けるとそう言った
先程躓いたのはどうやらKが足をかけたせいらしい
「いや、助かったよ。ありがとう」俺は未だ整わない呼吸のまま答えた
「追ってきてたのは警察かな」とKに問うて見ると「どうだろうね、本業の人かも」と笑っていた
俺たちは長居するのは懸命ではないと考えすぐに駅へ向かった
しかしある誤算があった、終電が行ってしまったあとだったのである
ポケットの携帯を開くと大量の不在着信が入っていた、全て親からだった
コンビニへ行くといい2時間以上も帰っていないのだから当然心配したのだろう、Kにことわってから親に電話をし途中で友達に会って泊まることになったと言った
かなり怒られたがひたすら謝り許しを得た
それを黙って見ていたKだがふと気になった、Kの親は何も言わないのだろうか?
俺はKのことを何も知らなかった、本人のことも家庭のことも
今日のようなことを普段もしてるのかということも
「仕方ない、歩こうか」とKが先を行き俺は後ろをついて行った
歩いても俺たちの最寄り駅までは40分ほどだ、たいした苦ではない
帰りは俺たちの住む町を割るように流れる大きな川の河川敷を歩いた
俺たちはまず成果を報告しあった
「俺は2万くらいだな」ポケットから千円札の束を取り出しKに見せた
「僕は3万と少しかな」と言って取り出した札を俺の手に乗せた
たった3時間ほどでこんな金が手に入った
これならあと少し金を貯めれば、あるいは同じことをもう何度かすれば俺の欲しいギターは簡単に買えるだろう
考え事をしてると「君のものだ受け取ってくれ、それともそれじゃあまだ足りないかい?」とKは俺に聞いた
「何に使うかは知らないが必要なら私は協力を厭わないよ」Kの言葉を聞き俺はなんて愚かなんだろうと自分を恥じた
そんなつもりはなかったが結果的にKの純粋な心を利用したのだ
「これは受け取れない」そう言ってKのポケットに札を押し込んだ
「必要なんだろ?遠慮するなよ」
「遠慮じゃない、必要なくなったんだ」俺はもう耐えられなかった
Kはなにかを察したのか「そうか、僕も金はいらないかな」と言って微笑み河川敷から出る階段を登り始めた
Kの向かう先はコンビニだった、Kは肉まんとお茶を二つずつ買いポケットから取り出した千円札の束を盲導犬のための募金箱ねじ込んだ
店員はおかしなものを見る目で俺たちを見ていた、こんな客はなかなかいないんだろう
「これで少しでも犬達が良い扱いを受けることを願うよ」とKは言っていた
店を出るとKは俺にお茶と肉まんを差し出した、「安心して俺の金だから、足かけて怪我させたお詫び」と付け加えながら
礼を言って受け取り俺たちは再び河川敷を歩き始めた
肉まんを食べ切りしばらく無言のまま歩いた
俺は思い切って疑問に思っていたことを聞いてみた
「なあ、あの薬はさ……そのどうしたんだ」
Kがそういうことに手を染めてるのを俺は今まで知らなかった、知った今でもどうしようか迷っている
俺が注意したところでどうと言うのだ、先程もKが言っていたじゃないか
何が悪で何が善だ、誰にも迷惑をかけてないからいいじゃないか
自称友人として俺はどうするべきなのだろう
そんなことを考えているとKは「ああこれ」と言ってポケットから例の小袋を取り出した
「手を出して」俺にそう促すとKは袋を開け俺の出した手に錠剤を乗せた
「口に入れて」そうKは言った、「え、いや」俺は単純に怖かった
「君は自分が摂取することが出来ないものを人から金を取ってわたしていたのか?」いつもと同じ調子だがなぜか冷たく言い放つように感じた
俺の罪がこんなものを口に含んだところで許されるとは思わない、だがこれを拒んだらKが自分から離れて行ってしまうそんな気がした
それは俺がこの錠剤を噛み砕いて起きる作用よりも怖い
「大丈夫さ、たったの一粒じゃなんの問題もない」Kは言った
俺は手に乗せられたものを口に放り込んだ、食べ慣れた人工甘味料の風味が口に広がり思わず「あれ、え……」と間抜けな声が出た
それを見てKは愉快そうに笑った
「俺が一度でもこれを薬だと言ったかい?」Kは袋に残ったピンクや青の小さな玉を口に流し込んだ
バリバリ噛み砕きながら「ただのラムネさ」とKは言った
俺は恥ずかしいやらなにやらで周りに人がいないのをいいことに思い切り叫んだ
その度Kは笑ってなんだかとてもカオスだった、あの時のKの楽しそうな顔は今でも昨日のことのように思い出せる
それから途中で見つけたベンチに座り少し休憩した
「俺はてっきりKがやばいものの売人でもやってるのかと思ったよ」
「今日はラムネを高額で売っていただけさ、売る時も一度もこれが薬だなんて言ってないから詐欺でもなんでもない」
なんてやつだと思った、思い出せば俺も一度も「薬です買ってください」なんて言ってない
Kに余計なことは言うなと言われていたから値段を提示しただけだ
なんだかそれを知った瞬間どっぷりと疲れが出てきた
「あー、俺の精神の葛藤には何の意味もなかったのかよ」
その日のKは終始楽しそうだったからそれでよしとしよう
「今日はありがとなK、俺のせいで色々迷惑かけたな」結果何も得てはいないが俺のためにKはこんな面倒な仕掛けまで考えてくれたのだ
「友達と遊んだのは久しぶりで楽しかったよ」とKは言ってベンチを立ち歩き出した、それからは特に言葉を交わすことはなかったが無言は苦痛じゃなかった
駅に着き俺たちは解散した、家に着くと帰宅した音で起きた親にこっ酷く叱られたのもいい思い出ということにしよう
後日、「そういえば君はどうして金が必要だったんだい?」とKが聞いてきた
俺は既にギターへの未練は吹っ切れていてどうでもよかったので適当に説明するとKは「ふーん」とだけ言っていた
その夜、21時くらいだろうか公衆電話からの着信があり不審に思いながら通話ボタンを押した
「22時に駅に来るんだ、いいか22時丁度にだぞ」それだけ言われ一方的に切られてしまい通話は終了した
電話の相手は名を名乗らなかったがその無機質な話し方はおそらくKだろう
一体何事だろう、Kからこんな風に電話が来るのは初めてだった
1年生の頃に教えた電話番号を未だに記憶していることも驚きだが
そんな電話をもらっては行かないわけにはいかない、ただ親に「少しコンビニへ」というとまた夜遊びをするのかとしつこく言われそうなので黙って家を出た
22時ちょうどを強調していたので携帯の時計を見ながら気をつけて向かった
この時間の駅は人影も一つか二つほどしかなく到着したそこにKがいないのはすぐに分かった
だが明らかに違和感を覚えるものが以前俺がKを待っていた辺りの階段の手すりに立てかけてあった
裸の古びたギターがそこにはあった、ヘッドにはレシートほどのサイズの紙がセロテープで貼り付けてありそこには『このアンティークは君のものだ、必要ない場合はこのまま置いておけ』と書いてあった
これはつまり俺へのKの贈り物なのだろうか、勘違いということはないだろう
俺は少々恥ずかしかったが裸のギターをそのまま有難く持って帰った
家に着き明るいところで確認するとそのギターはフレットはかなり削れ所々に傷があるがとても良いものだった、すこし調整すれば全然使えるものだ
その日は興奮とKへの感謝でしばらく眠れなかった
次の日、いつも通り昼飯を食うためKの前に座った
「いいギターをくれて本当にありがとう、よくあんなの持ってたな」と言うと「なんの話かな」と言いチーズ蒸しパンを口に運んでいた
どこかで質問ありましたが僕の年は20代とだけ
僕はKに依存して利用してただけかもしれません、全くいいやつなんかではないんです
面白い!他にもエピソードあるなら読んでみたいです
1です、こんばんは
創作だどうのと話があるようですが僕から「これはノンフィクションだ、信じろ」と押し付ける気はありません
Kともこのような話をしたことがあります、いつも通りの昼休みに前の晩暇潰しに見たテレビがやらせ臭かったとKに話して聞かせた時のことです
Kは「君は僕が世界は白黒に見えると言ったら頭ごなしにこの世界は色彩豊かで素晴らしいものだと否定するのかい?虫が綺麗と言ったら、いや気持ち悪いと否定するのかい?その人の世界はその人のものさ、真に理解なんてできない」とそんなことを言っていました
つまり僕の中でKは生きていますがこれを読む皆さんは架空の生き物であると認識しようとそれは仕方のないことです
平たく言えば人それぞれ、勝手にしやがれです
嫌なら読まないでくれて構いませんしそれが多数のようでしたら自分の日記帳にでも書きます
このスレを立ててKのことを再び考える機会ができ色んなことを思考しました、それだけで僕には価値のあるものです
これを読む人が少しでも暇潰しになったりKのような人物もいるんだと思ってくれればとその程度の気持ちで書いてます
何が言いたいのかわからなくなったので、要するに需要がありそうならまた来て書きますねということです
結構な数の人が見てくれているようでとても嬉しいです、スレ立て自体初めてなのでボロクソに叩かれると思ってました
レスポンスがあるのはとても嬉しいので是非なんでもいいので適当なこと書いてください、「読みにくいんだよカス」とかそんなんでも言ってくれれば治す努力をします
Kとの話はこれからは一区切りごとに書き溜めてから貼っていきたいと思います、次に貼れるのはおそらく明日以降になると思います
暇な人はお付き合いくださいね
暇な人とは俺のことだな
みてる
そのままの調子で続けてくれ
1です
なんか荒れてるんで補足しときますね、買う側のルート云々も売る際のルール云々も詳しくは知りませんがラムネだろうと売れましたよ、かなり取引の際のやり取りを省いてるので不自然かもしれませんね
声をかければ売れたというわけではありませんし人によっては警察に連絡すると言われたりもしました、最終的には通報されてしまった故に追われたのかもしれません
僕にはその場で起きたことしかわかりませんがそれを創作と言うのであれば昨日も書いた通り読んだ人の自由です
どんな意見だろうと平等に受け付けるので僕を叩くのは自由ですがそれにより不毛な争いが生まれるなら書き込みは自重したいと思います
楽にいきましょう
こうなると何を書こうと批判されるだけですね、また落ち着いた頃にスレ立てようと思うので落としてください
これを機にKと連絡とってみようと思います、それが叶えばそのことも報告しますね
Kにいがらしみきお薦めてみて
以前教えてくれたやつですね?ぜひ勧めてみます、僕も興味があるので機会があれば読んでみます
うん!
楽しみにしてるよ
また早く続き読みたい!
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